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きのこ面白情報

【きのこ面白情報】とよ田キノ子さんコラムVol.32 きのこムラージュ標本の謎

こんにちは。
とよ田キノ子です。

ムラージュ標本をご存知でしょうか?
ムラージュとは、蝋を型に流し込んで作成する技法。
日本では主に医療用の記録として、かつては皮膚病や傷を石膏で型を取りムラージュ標本を作成していたようです。

2004年、そのムラージュ技法で作られた貴重なきのこの標本30点が、
金沢大学の標本庫から発見されました。
発見当時、その古いきのこムラージュ標本について知る人はいなかったそうです。
保管スペース確保の問題から廃棄処分寸前だったこの標本を救ったのは、保存を望む研究者たちでした。
そして、このきのこムラージュ標本についての調査が始まります。
製作年、製作者、標本を監修した人物は…?
様々な偶然が重なり、ある時、ひょんなところで糸口が見つかります。
その情報源はなんとTwitter!
2010年、石川きのこの会20周年記念きのこ展で展示したきのこムラージュ標本の写真がTwitterにアップされ、
その投稿に対して「東大博物館小石川分館のきのこ標本と同じではないか?」とコメントが寄せられました。
調査により、東京大学のものと同じきのこムラージュ標本だということがわかり、その貴重性が再評価されることに。
その後、北海道大学植物園にも同じ標本があることが判明し、謎がどんどん解き明かされていきます。
まず、謎を解く上での鍵となるのは、標本に付いているラベル。
紙製のラベルは経年による劣化や度重なる書き換えがあるものの、
きのこの分類や名称は、研究が進むに連れ変化するので年代を特定するためには重要な情報となります。
一方で、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーに収められている、
山越工作所『博物学標本目録』(1936年)にも類似のきのこ模型が掲載されており、有力な情報になりました。
これにより、山越工作所のきのこムラージュ標本の監修者が川村清一氏(『原色日本菌類図鑑』編者)ということが判明、
また、山越工作所の創始者・山越長七郎がウィーンで蝋模型標本技術を修得して持ち帰った年代などから、
1915年(大正4年)頃、今から約100年前に製造されたものではないかと導き出されたのです。

そんな謎と大正ロマンを感じさせる、きのこムラージュ標本。
金沢大学資料館で展示されているという情報を聞き、実際に見に行ってきました!
見た瞬間、100年前のものとは思えぬ状態の良さに驚きます。
実物から型を取る技法だけあって、かなりリアルな造形でヒダや柄の模様など細部まで作り込まれていました。
ちなみに、東京大学の「イロガワリタケ」標本と金沢大学の「イロガハリ」標本は、型が同じ可能性ありとのこと。
これって、まさに現代のフィギュアですね。
そして、何と言ってもひとつひとつに猫足付きの木製台座とガラスのドーム。
この形がなんともかわいらしく、このまま部屋に飾っておきたいほど!
(廃棄処分にならなくてよかったよ、ほんと!)

何も知らなければただの古びた標本にしか見えませんが、こんなストーリーを知るだけでも
博物館や美術館などで展示されているものが、ぐんと近くに感じられますよね。
そして、標本発見から何年も解かれなかった謎の絡まった糸玉が、
Twitterというウェブ(=クモの糸)上の情報によって糸口を見つけ、
菌糸のように張り巡らされた全国のネットワークのチカラで謎が解き明かされていく様はとてもワクワクさせられます。
私がこうして実物をみることができたのも、過去から繋がる縁。
これからも知的好奇心という糸をたくさん見つけ、
手繰り寄せていったら、きっとワクワクする未来が待っていることでしょう。
きのこはそんなことも教えてくれました。

※金沢大学資料館、金沢大学附属図書館の許可を得て、撮影・掲載しております。

【参考文献】
詳しい謎解きの様子は以下の資料で公開されております。
■金沢大学資料館紀要 6号(2011年3月)
「四高のキノコ・ムラージュの謎」(河原 栄、佐久間大輔、赤石大輔)
■金沢大学資料館紀要 7号(2012年3月)
「四高のキノコ・ムラージュ 第2報」(河原 栄、佐久間大輔、加藤 克、赤石大輔、古畑 徹)

きのこムラージュ標本は以下からご覧いただくことができます。
金沢大学資料館 デジタルアーカイブ:きのこムラージュ標本

toyoda_prof
とよ田キノ子
アートディレクター、グラフィック&ウェブデザイナー、きのこグッズコレクター。
2007年に“キノコ病”を発症し、以後「とよ田キノ子」名義で活動を開始。
キノコグッズコレクションの展示や、キノコをモチーフにしたイラスト作品展、
キノコイベント等を開催。
2011年9月、グラフィック社より出版された『きのこ(乙女の玉手箱シリーズ)』を監修。
日々、キノコの魅力を伝える“胞子活動”を行っています。
信州きのこの会会員。

とよ田キノ子さんウェブサイトはコチラ

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